ものすごく久しぶりにブログを書きます。8月の頭にコロナ陽性になり、夏休みの旅行の計画もあきらめざるを得なくなり、久しぶりにぽっかりと時間ができたことで何か書こうという気持ちになりました。
なぜ私はこんなご時世にロシア語を学んでいるのか
今回はコロナに罹ったこと…ではなく私のロシア語学習について書いてみようと思います。「こんなご時世になぜ…」とか、「こんなご時世だからあえて?」など、なぜ私がロシア語を勉強しているのか聞かれることがあるのですが、そもそものきっかけは“こんなご時世”になる前、具体的には2019年の9月、まだロシアによるウクライナ侵攻も世界的に新型コロナウィルスが蔓延ってもいないころ、たった1泊だけモスクワに滞在したことに端を発します。このあたりのことはブログのかなり初期に書いたのでお暇でしたら見てみてください…。そこで他の国では感じたことのないガツンとした衝撃を食らったのでした。ちなみにモスクワに行く前には香港とイスタンブールにも滞在していて、それぞれに印象的だったので広東語やトルコ語を学ぶ選択肢もあったのですが、学生時代に第二外国語の選択で大学で取れる言語をすべて選択してしまい(独・仏・中・韓)、結局何一つ身につかなかったという反省から、言語は広く浅くではなく一つに絞るべしとの教訓を得て今回はロシア語に集中することにしました。ロシア語のマイナー言語界のメジャー言語筆頭感、何かを患っている感じがいいといいますか…。モスクワではあまり英語が通じない代わりに、飛行機の中で覚えた付け焼刃のロシア語でもかなり通じたという成功体験も大きかったかもしれません。
完全な独学時代はDuolingoのみ
とりあえず入門的なテキストを買ったりはしたものの、もっぱら勉強は語学学習アプリDuolingoで進めました。毎日ゲーム的にロシア語クイズをクリアしていくと『何日連続!』などとお知らせしてくるので継続するモチベーションが上がり、気がつけば1,000日連続でクイズをやり続けていました。ただロシア語が身についている実感には乏しく、やはりアプリだけで勉強するのは無理があるな、でも学校に行ったりロシア人講師に教わるのはお金がかかるな…と悩んでいました。そんな折、顔の広そうな知人にその旨を少し相談すると、即座に人を紹介してもらい、またその人の紹介で、ロシア語界の大先生と言われる方に教えてもらえるチャンスが巡ってきました。知り合いの知り合いぐらいをたどるとすごい人がいる、それが東京の恐ろしさ、すごさだと地方出身者の私は常々感じますが、今回もそれを思い知らされました。
ロシア語界の大家にロシア語を教わることに
メールアドレスを教えてもらい、その大先生に簡単な自己紹介とロシア語学習歴(要は超初心者)をメールしたところ、私のレベルの授業は現在開講していないが、4、5人受講生を集めてきてくれたらオンライン形式で開講することができるという話になったのが今年のはじめころです。すごいチャンスが舞い込んできたのですが、そこからが大変でした。何しろ私は交友関係がかなり狭く、ロシア語に興味がありそうな知り合いなど全然いなかったからです。まずは知り合いの多そうな人にロシア語に興味のある人を探してもらうということを思いつく限りやって、集まったと思ったらやっぱり無理と断られたりと何度も頓挫しそうになりながら、何とかこのチャンスを実現させたいとの思いでやっと自分を含めて4名の受講生を集めました。人集めの次は時間調整がまた一苦労で、全員フリーランスに近い働き方だったので毎週毎週全員の都合を合わせるのは不可能かと思われましたが、朝の8時からにすることで何とかクリアしました。そしていよいよ今年の4月から週に1度、オンラインで90分間のロシア語講座を開講するまでに漕ぎつけました。しかも著名な先生から教えてもらうにしてはかなりお手頃な価格で。先生の著書である教科書を無料で送ってもらうという破格の待遇で!
完全なオンラインでのロシア語講座がスタート
事前に一度だけ先生にオンライン上で挨拶をしただけで、受講生3名のうち、2名は私も会ったことすらなく、おそらく私以上にロシア語は全くの初めてというメンバーで一体どうなるんだという不安の中、ロシア語講座は始まりました。まずはロシア語のアルファベット、キリル文字を覚えるところからスタートするわけですが、私はアプリ学習で慣れていたので難なくクリア…、と思われたのですが、アプリだと実際紙に書くということがないのでいざ書こうとすると全然書けないものなんですね。血肉化されていないといいますか…。講座では発音練習を地道に何度も繰り返しながら毎週先生から大量の課題がメール送信されてくるのでそれをこなしつつ、少しずつ文法を学んでいきます。やはりアプリだと文法を体系的に学ぶことができないので、アプリ学習のみで語学を習得するのは無理だと実感しました。サブとしてはいいですが…。学習にあたっては何か目標がある方がいいだろうと思い、ロシア語能力検定試験の一番下の4級合格を掲げ、先生にも10月に行われる試験を受けてみるつもりであることを伝えました。すると先生は「4級なら5月の受検でも突貫工事で何とかなる」と言うのです。過去問さえやっておけば楽勝という先生の言葉を真に受けて、いきなり受検することにしました。「戦いには勝たなければならない」と先生に発破をかけられながら…。
巨匠プレッシャーの中、ロシア語講座開始2か月で検定試験受検
こんな偉い先生に教わっていて落ちるわけにはいかないというプレッシャーの下、5月28日の受検日の1か月前ぐらいからかなり必死で勉強し始めました。ちょうど自分にとっては初めて、原画イラストをグループ展に出展するというビッグイベントも同時期に抱えていたのですが、正直イラストよりもかなりロシア語の勉強の方を頑張っていました。いちおう英文科卒だし、TOEICも900点以上あるし、本気を出せば語学は何とかなるだろうとどこかで思っていたのが、もう全然だめで焦るばかりでした。ロシア語に比べれば英語なんて全然変化しないし楽じゃん!と思わずにいられないほど、語の性・数・格・時制等によって無限に変化していってわけがわからない。しかも過去問を取り寄せてみると選択問題よりも記述式の問題の方が多く、各試験科目で6割以上正解する必要があり「まぐれで当たる」ことが不可能な仕組みであることが判明。いやいや5月は早すぎるでしょと思いながら仕事中にも構わずノートに語の変化を書きまくりました。
やはり癖が強いロシア語能力検定受検者
そして受検日当日…。試験会場は経堂にある東京ロシア語学院。受検日当日に迷うことがないよう、事前に行ってルートを確認していました。当日は午前10時の試験開始時刻よりかなり早い8時ぐらいに会場近くのドトールに行き、そこで9時半ぐらいまで勉強。そして会場の東京ロシア語学院へ向かいます。5月は4級と3級のみ試験があり、4級は3階の教室に行くように案内を受けます。最上階の3階の小さな教室2つがおそらく4級の試験会場で、自分の試験番号が書かれた方の教室に入ると計20名ほどの受検生がいたでしょうか。語学というと、大体女性の方が人数の比率が高いイメージがありますが、ここは若者から中年ぐらいまで、男性の方が多い。中にはロシア語にルーツがあるのか、日本人らしくない見た目の方もいました。TOEICの会場などで見る「会社で受けないといけないから」というような薄いメンバーではなく、明らかに癖の強い、教室の隅でドストエフスキーを読んでいそうな陰キャ全開の方たちが集まっていて、分厚い辞書を繰りながらブツブツ独り言を言っているやばい感じの人など、こうでなくちゃと私のテンションも上がります。女性は私のような中途半端な年齢の中年女性はほとんどいなくて、外大生かな?といった割とふつうの感じの若い女の子が多い印象でした。
かなり独特な試験科目『朗読』
10時から11時半の90分間が筆記試験で、試験科目は文法・露文和訳・和文露訳という構成です。その後5分間の休憩の後に『朗読』の試験があるのですが、これが試験当日まで謎でした。過去問ではテキストの問題文を朗読したCDが入っていたのですが、具体的にどうやって試験するのかはわからなかったのです。一人ずつ別室で試験官の前で問題文を読み上げるのかな…?などと想像していたら、まずジッパー付きビニール袋に入ったICレコーダーを一人1台ずつ配られ、そのビニール袋に名前と受検番号を記入、ICレコーダーの録音方法を教わったら、せーので全員一斉にICレコーダーに向かって問題文を読み上げ録音するのです。しかも時間内であれば何度でも読み直すことができる。私は前の席の人があまりに明瞭な発音で上手なのに圧倒されてしまい、ぼそぼそとか細い声で1回しか読み上げることができませんでした。
12時頃に試験は終了。正直実感としては「落ちた…」という感触でした。これで一番下の級ってハードル高すぎないか!?と思っていたら試験監督の女性が「ではみなさん続いて次回は3級を受検されると思いますけれども…」と4級は“受かる前提”で話をするので驚きました。2階に降りると長蛇の列ができていると思ったら、次の級の過去問を買い求める列で、「そんなに受かるもんなの⁉」とまた驚きました。試験が終わって冷静になってみると、どんなニッチなイベントでもかなりの集客が見込める東京で、試験会場は東京でここだけのはずなのに、このご時世とはいえかなり受検者少ないな…と思いました。私は受かる見込みがないと思ったので3級の過去問は買わずに、東京ロシア語学院を何となく見て周りました。サハリン・シベリア間の時刻表などが置いてある図書コーナーやロシア語表記のトイレ、何とも陰気な雰囲気でいいのですが、建物自体はとても小規模です。
なんと4級に合格していた!
私は無事に試験が終わった旨を先生にメールで報告し、また10月の試験で再チャレンジしようと決意を新たにしていました。そして迎えた7月12日の合格発表の日、ネットでおそるおそる結果を見ると…、どう見ても私の受検番号がありました。夫にも確認してもらい、間違いがないことを何度も念押ししました。そして数日後、改めて合格証書と成績表が郵送され、やはり見間違いではなかったことが証明されました。しつこいですが、それくらい落ちたと思っていたのです。試験科目の中でも特に文法が無理だとあきらめていたのですが、65%でギリギリセーフでした。合格率は73%なので高いことは高いですが、それでもとてもうれしかった。正直先生が私の合格のために動いてくださったのでは⁉と疑ってしまったぐらいです(ロシアでは教え子は常に満点にするという強烈な身内びいきがあるらしいので…)。
しかしネットで公表されている4級の受検者数は全国で276名ですから、やはりとても少ないです。ここ数年で顕著に減少しているというわけでもなさそうですが、TOEICなんかに比べると本当にレアな検定試験ですね…。
先生に合格を報告するととても喜んでくれ、ほっと一安心しました。現在、オンラインのロシア語講座も4か月ほど経過しましたが、意外?なことにいわば私に巻き込まれた形でロシア語を学ばされていると思っていた私以外の3名の誰も脱落することなく楽しくロシア語講座は続いています。先生に対しても最初は恐縮しまくっていたのですが、段々と先生はロシア語を教えるのが好きで好きで仕方ないのだということがわかり、なぜ先生を紹介してもらえたのかもわかったような気がしました。もっと詳しく先生や他の受講生のことも書きたいところですが、許可を取っていないのでこれぐらいしか書けないのが惜しいところです。
ロシア語を勉強している間にウクライナ侵攻が始まり、全く収束する気配が見られないどころか悪夢のような状況が続くばかりで、私がのんきに観光でロシアを訪れる未来など全く見えてきません。したがって私がロシア語を使う予定も全然ないのですが、ニュースでプーチン大統領やワグネルのプリゴジンの話す言葉が単語レベルでもわかることが出てきて、自分でもおやっとは思います。ここまで来てしまったからには次は3級を目指して引き続き勉強を続け、ロシアに行けなくともドストエフスキーを原著で読むという究極に患った感じを目指していくしかないかな…と思ったりしています。