GROSSE FATIGUE AT ISTANBUL AIRPORT

我々のチケットを破る熊のような風貌のロシア人アエロフロートスタッフ

“おそロシア”

ロシアについて、そんな表現がされることがある。私も先日、旅の途中でこの言葉を呟かざるを得ない状況に遭遇した。その時のことを書いてみたい。

私は夫とイスタンブールの旅行中であった。アジアでもあり、ヨーロッパでもある、その不思議な交わりが生んだ豊かな土地の文化を思う存分味わっていた。イスタンブール滞在最終日はトプカプ宮殿の辺りを観光して、18:30のイスタンブール発モスクワ経由成田行きのアエロフロートで帰国する予定だった。事前にロシアの通過ビザは取得していたので、ストップオーバーで少しだけモスクワ観光もするつもりで。

不吉な知らせはイスタンブール滞在最終日の前夜に届いた。旅行代理店から夫にメールがあり、「予約していた明日18:30発モスクワ行の便がキャンセルになった。急な変更なのでこちらで対応が難しい。明日直接空港のアエロフロート航空の窓口に行って自分で交渉してほしい」というのだ。トプカプ宮殿観光などと呑気なことは言ってられない状況になり、翌朝は早朝ホテルをチェックアウトしてイスタンブール空港へ。我々はアエロフロートの数々の『評判』を事前に調べており、特に急なキャンセルが起きた時の対応のまずさについても伝え聞いていたので、その時点で浮かれ観光気分はほぼ消えていた。滞在中、まばゆいばかりの晴天が続いていたイスタンブールは、土砂降りの雨になっていた。

2018年に開港したばかりのイスタンブール空港に着き、世界最大級といわれる空港の敷地内を、アエロフロートの窓口を探して歩く我々。しかし、インフォメーションセンターで場所を聞いてその場所に行っても、電光掲示板に示される場所に行ってみても、ない。あまりにも広すぎる空港を呪いながら、トランクを引いて右往左往するだけで心が折れそうになる。何回目かに行ったインフォメーションセンターで、今度は空港内の旅行代理店に行けと言われる。意味もわからず言われたところに行き、代理店スタッフに事情を説明したところでやっと『イスタンブール空港内にアエロフロート航空の窓口はない』という事実を知ることに。こんなに大きな空港なのに!?インフォメーションセンターと掲示板の情報はなんだったの!?という突っ込みはさておき…。窓口がないんだったらどうすればいいんだと途方に暮れていると、代理店スタッフ(ネイマール似)が「便がキャンセルになったのならここでアエロフロートのモスクワ行きチケットを買い直して、モスクワに行ってからアエロフロート航空の窓口で返金の交渉をするしかない」と言う。そこに一条の光明を見た我々は、言われた通りモスクワ行きのチケットを購入した。

従来の予定より早めの12:30イスタンブール発の便を購入し、チェックインの時間になったので手続きをしようとカウンターに行くと、そこに探しても探してもいなかったアエロフロートのロシア人スタッフが。どうやら空港にアエロフロート航空としての窓口はないものの、チェックインが始まるとその時だけスタッフがやってくるらしい。熊でも殺せそうな屈強な体をしたスタッフが、新たに買い直した我々のチケットとパスポートをジロっと見て「これはなんだ、通過ビザしか取ってないのにモスクワ行の片道のチケットなんだが?」と冷たく言い放つ。そこで夫は必死に「我々はモスクワ経由のイスタンブール発成田行きのチケットを買っていたが、18:30イスタンブール発モスクワ行の便がキャンセルになったので仕方なくその分のチケットを買い直した」と訴えた。するとその熊のようなスタッフがその時のチケットを見せてみろと言う。我々が元々買っていたチケットを渡すといろいろと調べ始め、「あんたらの予約はキャンセルにはなっていない。18:30から14:30の便にちゃんと変更されている」と我々が全く知らなかった事実を平然と言う。狼狽する我々に熊は続けて「我々に電話するでもネットで調べるでも、いくらでも変更について知りようがあっただろう。あんたらが勝手に勘違いして買い直したこのチケットはゴミだ。早く旅行代理店に戻って返金してもらえ」と言って、なんと私たちの目の前でチケットをビリビリに破いてゴミ箱に捨ててしまった。

熊のあまりの迫力に泣きそうになりながら、我々はすごすごとチケットを買い直した旅行代理店に戻り、先のネイマール似のスタッフに事情を説明する。すると「なんだって!?チケットの払い戻しはもうできないよ。そういう事情なら払い戻してあげたいが、何しろ時間が遅すぎる。よし、我々といっしょにもう一度そいつの所へ行って話をつけよう」ともう一人の代理店のスタッフのお兄さんと我々と共に4人で再度チェックインカウンターに行くという謎な展開に。「言ってたやつはどれ?」と聞かれ熊を指さすと、トルコ人代理店スタッフ2人が熊に詰め寄り、「もう払い戻しはできない」と主張。「いやできる」とまったく揺らぐ気配のない熊の主張がぶつかり両者とも全く譲らない。我々日本人は完全に蚊帳の外で、もう日本に帰れるんなら二重払いでも何でもいいという気持ちになり、疲れも相まって脇でのんびり時間をやり過ごしていた。結局話し合いは2時間弱ほど延々と続き、トルコ人とロシア人の間で何らかの話の決着がついた模様。我々は代理店へ再度戻るよう代理店スタッフに促され、違約金を少し払うだけで買い直した分のチケット代を返金してもらうことができた。そして知らぬ間に変更されていた14:30発の便で無事モスクワへ…。

アエロフロート航空の一スタッフの接客ではあったが、『北方領土は決して返還されない』そんな確信を持つに至る出来事だった。生ぬるい日常を抜け出したい御仁には是非アエロフロート航空での旅をおすすめしたい。

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