STUFFED DREAMS

自作のぬいぐるみのかわいさは格別です

突然、ぬいぐるみ作りにはまった。身近な人は私がどれほど手先が不器用か知っている。もちろん、そんな私だから裁縫の趣味など今までまるでなかった。一体なぜ急にぬいぐるみを作り始めたのか?

予兆は少し前からあった。なんとなく、ムラムラと縫い物がしたいような気持ちが生まれており、NHKの『すてきにハンドメイド』などが急に気になりだしていた。そして、別のテレビで、飼い犬に留守中くまのぬいぐるみをズタズタに噛み千切られた小学生の男の子が自力で破片を縫い合わせて元の形にほぼ近い状態にまでぬいぐるみを補修するという番組をやっており、なぜか天啓を受けたように「これだ」と思った。

ネットで『はじめてのどうぶつぬいぐるみ』という本を購入し、本が届いたらその本を片手にさっそく近くの手芸店に出向いた。しかしぬいぐるみを作るのに何が必要なのか、どのような手順を踏むのかパラパラと本を見ても全く想像できない。とりあえず本には生地として「ポリエステルボア」が必要であると書いてある。生地売り場の生地をカットするスペースに立っていたベテラン感漂うおばさんに本を見せながら、初めてぬいぐるみを作ろうとしているのだがこういう生地を探している旨を伝えると、「うーんボアはまだ入荷がないからこれだけしかない」と指さされる。確かに種類は少なくモコモコしてはいるもののちょっとヒョウ柄みたいだったりしてぬいぐるみには適さなさそうだ。さらに「初めてなんだったらボアは縫いにくいかもしれない。まずは綿の生地で練習してみたら?」と勧められる。それはおっしゃる通りなのだが、ぬいぐるみの魅力はやはりモコモコであることなので、綿ではわざわざ自作する意味がないのだ。そこもそれなりに規模の大きい手芸店だったのだが、ここには求めているものはないと別フロアで一体何に使うのかわからないけど本に書いてある「ペレット」という白いビーズのようなものだけ買って店を出た。

やはりここはオカダヤか…と気を取り直し、新宿本店へ向かう。上京前は馴染みがなかったが、東京で手芸店といえばオカダヤらしい。オカダヤは生地館だけアルタの中にあり、初めてアルタに足を踏み入れる。すると4階のフロア一杯に様々な種類の生地があり、その規模に圧倒された。しかもさきほどの手芸店とは違い、お客さんが老婆や子供の学校の袋類を作るために来たような主婦といった風情ではなく、一体何者で何を作ろうとしているんだろうという想像を掻き立てられるようなとんがった感じの人たちばかりだ。ここでも全くどこに行けば目的のものがあるのかわからなかったので若い店員さんに本を見せながらボアの場所を聞く。案内された場所には確かに種々雑多なモコモコ素材の生地があった。しかも絨毯でも作れそうな巨大なロールに巻き付けられている。うむ…求めているものがここにありそうだ…と色合いと手触りを確認しながら本の一番最初に紹介されている「基本のうさぎ」を作るのに適していそうな薄いピンクのボアを選ぶ。で…よくわからないが、この巨大なロールをカットスペースまで運ぶらしい。自分の背丈ほどもありそうなモコモコロールをなんとかカットスペースまで持って運び、待っていると店員さんにロールを専用スペースに置くよう指示される(本来は売り場近くにロールを立てておいて店員さんにカットスペースまで持っていってもらうそうです)。カットスペースには行列ができていて、5人ほどの店員さんたちが忙しく生地をカットしている。私の番が来て何センチにカットするか聞かれ、またパニックになって思わず本を見せ「35センチ×45センチ」のところを指さすと「10センチずつしかカットできないんですけど」と冷たく言い放たれ、思わず「じゃあ50センチで」と答える。そもそもの生地幅が150センチほどあり、そこから何センチカットするかを聞かれていたのだが、そんなことはわからない。50センチも切ってもらうと結構な量になった。

ここまででもだいぶ疲労困憊したのだが、まだまだ必要なものがあるらしい。次は耳裏用の生地として「ポリエステルスエード」が必要だというのでまた店員さんに聞いてもう一階上のフロアへ。ここはまた私には未知すぎる素材のものが豊富に売っているのだが、他のコーナーを見る余裕はなく教えてもらったスエードのコーナーへ。ボア以上に何がいいのか不明だったのでとりあえず生地が薄くて色が近いものを選ぶ。またカットコーナーで店員さんに本を見せながらこの生地でいいか聞くと「何に使うんですか?」と冷たく言い放たれ「ぬいぐるみの耳の裏に使うらしいんですけど…」と答えると「じゃあいいんじゃないですか」との回答。とにかく忙しいのだ。前回の教訓を生かして生地を買いすぎないように短めに頼む。会計をしながら、ぬいぐるみ、買った方が安いよな…と当然の事実に気がつくのだが、そういうことではないのだと気を取り直し、すぐ近くのオカダヤ新宿本店(服飾館)ビルの5階へ。ここは生地館ほどの戦場のような慌ただしさはなく、店員さんにも余裕がありそうなのでまた本を見せて必要な物がどこにあるのか聞く。ここで綿、糸、目玉、目打ち、ぬいぐるみ針、更に勢いがついて家にもあるのに裁ちばさみも新しく買ってしまう。

これで必要な物は買いこんだぞ…と帰宅後さっそく本を見ながら制作を開始。いきなり『型紙を厚紙に貼り…』と書かれていて厚紙!?となる。しかし人生に無駄はないのだ。先日の大相撲千秋楽観戦の際、応援ボードを作るために買った厚紙の残りがあったではないか。危ない危ない…と気を取り直し厚紙を型紙の大きさに切って、いよいよ買った生地をパーツごとに裁つ作業へ。ボアなので切っていると犬を触った後のように自分が毛だらけになる。あとはひたすらパーツを縫い合わせていき、耳、頭、からだと縫い合わせていって、縫い残していたわずかの部分から生地をひっくり返すと…おお!!モコモコのうさぎではないか!!すでにかわいいのだが、目玉をつけて、綿を入れて、最後に縫い残した部分(返し口)を縫って鼻の刺繍をして…でけた!私の常にない集中力を見せて制作期間わずか1日でぬいぐるみが完成した。眺めていると、とんでもない愛おしさが爆発する。

パーツを縫い合わせている間はいろいろなことが蘇ってきて、小学生の時なぜか手芸部に入ってしまったものの、ほぼすべての課題を母にアウトソーシングし、自分で作った黒猫のぬいぐるみ(のようなもの)は「あれはひどかった。ぬいぐるみなのに厚みがなかった」と今でも言われるほどの代物だったこと、大学の時、後輩が「趣味でぬいぐるみを作っている」と言っているのを聞いて私もやってみようと後輩に聞いたデパートに行ってみたものの材料の値段の高さに挫折したこと、その後輩が現在はボディビルの大会で地区の代表みたいになっていることなどの記憶の断片が去来した。そんな私でもかわいいぬいぐるみができたのだ。名前はうさ山に決めた。

その後実家に帰省することがあり、ぬいぐるみを持って帰って母に見せたかったのだが、批判されることを恐れ写真だけ見せた。すると「すごいやん、でも実物を見るまでは信じられない」とのコメント。妹も「ぬいぐるみは毛がある分縫い目が見えにくいから」とフォローになっていないコメントを被せてくる。「とにかく何を作ってもひどい」と母に重ねて言われ、長年にわたって積み上げてきた圧倒的な実績はぬいぐるみ1体では覆らなかった。

次はくまを作る予定です。

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