WHERE I CAN FEEL NOTHING

新宿で無になれる喫茶店は貴重だ

新宿駅ではいつも喫茶店選びに苦労する。もちろん数多くの喫茶店が存在するのだが、基本的にどこも混んでいる。もし曜日や時間帯によって混んでいなくとも、分煙されていなかったり、店員にクセがありすぎたり、その時たまたまいた客にクセがありすぎたり、心の平穏を阻む要因がどこかしらにあったりする。

その日も私は新宿駅で喫茶店を探していた。平日の午後3時。本屋で本を買ったばかりで、昼食は曖昧に食べた程度で小腹がすいており、新宿の景色でも眺めながらぼんやり軽食を食べたり本を読んだりしたかった。

手っ取り早く景色のよさならを楽しみたいならデパートだろうと、まずは小田急百貨店に入ってみた。レストラン街では少し違う気がするので、11階から順に降りてみる。しかしどこも微妙に気分にフィットしてこない。ハレの日感が強すぎたり、同じようなことを考えてきたような一人客で混雑していたり、あえて喫茶店でななくカフェ寄りにし過ぎていたり、何かが違うと思い続けている間に1階に戻っていた。

続いてお隣の京王百貨店へ。より「お年寄り」にターゲットを絞ったデパートなので期待が高まる。どのフロアにも喫茶店があるわけではないようなので、まずは8階のレストラン街ものぞいてみる。小田急よりは入りやすそうなお店があるが、やはりレストラン街は華やかさがありすぎる。

7階、6階は喫茶店がないようなので、5階へ。紳士服やアウトドア用品などを横目に奥の奥まで進んでいくと、それはあった。 喫茶「グリーン・バース」 。 店の入口からざっと見渡したところ、客は数えるほどしかいない。景色が見える隅の席も空いているようだ。店員はお好きな席にどうぞと軽く案内する。よし、ここにしてみようと決心し、窓を背にする席を陣取る。見下ろす新宿の景色は5階からなので高くも低くもない中途半端な眺め。注文後運ばれてきたミックスサンドとコーヒーを頬張りながら確信した。ここだ。ここに求めていた心の平安があると。程よくやる気のない定員。まばらなお年寄りの客。こだわりの少ない内装。当たり前の喫茶店メニュー。もちろんミックスサンドとコーヒーはうまい。少し美味しすぎるぐらいだ。

思う存分何にも邪魔されない「無の時間」を堪能した。新宿駅で静かな喫茶店はとても貴重なのだ。京王百貨店、今では珍しい屋上のペットショップや謎の阪神タイガースショップや鉄道模型店があったりして侮れない独自色がある。お年寄りにやさしいデパートは私にもやさしい。

すぐに貯まりそうなポイントカード

※2020年9月10日、喫茶「グリーンバース」へ行こうとしたら閉店しているのを確認。貴重な憩いの場は失われた…。

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