8月になり、とても暑いです。去年も暑さでダメになりそうになっていましたが、食欲がなくなったおかげで痩せたりといいこともありました。でも今年は食欲すらなくならず、何もいいことがありません。
前々回のブログで「オリンピックの前日まで緊急事態宣言が延長になったら面白い」などと冗談のつもりで書いていましたが、現実はそのような想像を軽々と上回って『緊急事態宣言下でオリンピック実施』という荒業を繰り出してきました。しかも競技の新記録が次々に更新されるように日々感染者数も過去最高を記録しています。オリンピックのメダルが増える高揚感と相まって、もっと感染者数が増えるのではないかという”期待”のようなものすら抱いてしまう毎日…。
新型コロナウイルスやオリンピックの話題についてはもうお腹いっぱいなのでこれ以上はいいとして、また私の地味な日常を書いてみます。
去年の秋ごろから急にぬいぐるみ作りにはまり、いろいろな動物や人形のようなものを作ってきたのですが、それらはすべてプロが作った『型紙』を基に作っています。つまり指示通りに作っているだけで、私のオリジナルではない。それなりの数をこなしてくると、自然な流れとして型紙から自分で作って完全にオリジナルのぬいぐるみを作ってみたくなります。でも「ぬいぐるみの作り方」の本やYouTube動画などはそれなりにあっても「ぬいぐるみの型紙の作り方」はあまり見つかりません。そんな中、ネットで偶然、文化服装学院のオープンカレッジで『オリジナルキャラクター製作』というぬいぐるみの型紙作りについて学べる2日間の講座が実施されることを知ったのです。
私は服飾関係のことは詳しくありませんが、文化服装学院といえば古くは山本耀司や高田賢三などのデザイナーが学び、今でもファッション関係の著名な人材を多数輩出していることで知られる専門学校です。小学生時代に手芸部に在籍し、課題はすべて母親にアウトソースしていたぐらいの経験しかない私が門をくぐるのは大変勇気が必要だったのですが、コロナ生活も長引きなんでもいいから刺激がほしいのもあり、7月某日、とりあえず行ってみることにしました。
文化服装学院を擁する学校法人文化学園は新宿駅南口から歩いて割とすぐ近くにあり、ビルのようなキャンパスを取りすがりに遠巻きに見ることは前からあったのですが、入口に入って建物案内を見ると何棟にも分かれていてとても規模が大きいことにまず驚きました。そして留学生なのか外国人の数もとても多い。ホワイトボードに張り出された本日のオープンカレッジの講座一覧にはその日だけでも私が受ける講座以外に「楽しい立体裁断・入門編」「接着芯と布の知識」「手作り作家のためのなるほど!知的財産権」「金モール刺繍」などの専門的な知識を学べる講座が多数開かれるようで、早々に圧倒されました。
指定されたB棟12階の教室でいよいよ講座を受けます。先生は40代ぐらいの女性。受講生は20代から60代ぐらいの女性が私を含め6名。この人数の少なさでは隠れられないとまず思いました。まず受講生が簡単に名前と受講動機を自己紹介をしていくのですが、中には文化服装学院OGで着ぐるみ制作会社で働いているような”ガチ”な人もいて、やはり完全な素人は私だけでは…と不安になりました。
先生のぬいぐるみ作家としての経歴のようなものの紹介は特になく、いきなり配布された手書きコピーのテキストを基に簡単なぬいぐるみ制作の考え方を座学で学ぶところからスタートします。「え~ぬいぐるみの形は平面、半立体、立体、丸、型取りとに分けられるのですが…」とそれらしく始まったのですが、早々に「ま、実際に見てもらって…」と話はそこそこに受講生を大量の先生の作品の前に集め、受講生に触らせながら「この作品は平面を基礎にしていて…」と説明が始まります。ところがその説明も中途半端なまま「ま、あんまり説明しても…実際にちょっとやってみましょうか…」と今度は半立体の作り方を紙とコンパスを使って実演してみせ、受講生にも同様に描かせてみせ、「じゃ、ま作りたいものによっても違うんで、まず作りたいものを紙に描いてみてそれから作ってみましょうか」とあっという間に実技に入る流れになってしまいました。
先生のオリジナル作品は間違いなく素晴らしいもので、こんな作品を自分で作れるようになったらとは思いましたが、どうやら物事を抽象化して説明することや人に教えたりすることがとても苦手な人であることが早々にわかってしまったのです。まあ、そんなものですよね。
完全フリーズ状態の私をよそに、他の受講生たちはやれハシビロコウやフェネックなどの「まずそれ作る!?」というような難易度の高そうな動物の絵を描いて、そこから立体にするための形を考えていく作業をどんどん進めています。私は簡単なうさぎの絵を描いて、先生のアドバイスを受けながらコピー紙に型紙の原型になるようなものを描いては切ってメンディングテープで貼って立体にする作業にトライしますが、なかなか思うような形にはなりません。
そうこうしているうちに昼休みの時間になったので簡単に昼食を食べてから校舎を少し探検したのですが、『購買部』と呼ばれる売店が非常に充実していて、裁縫道具以外にも画材からメイク道具までマニアックなものが多数置いてあり、その近くにも在校生が作ったのかゴスロリ服の出店みたいなのが出店していたり、生地屋や服飾関係専門の本屋が隣接していたりして部外者でもかなり楽しめるエリアがありました。それは楽しかったのですが、肝心の講座は…。午後も同様に「自分の作りたいものを自分のやり方で作ってみて、先生がアドバイスする」スタイルで進んでいくのですが、周りの猛者たちがどんどん理想に近いものを作っていっているなかで、私だけ紙で作ったゾンビのようなものが出来上がるばかりなんですね…。どんどん悲しい気持ちになってきて、終わるころにはもう一日は行きたくないところまで気分が落ち込んでいました。
参加することに意義があると何とか翌日は気を取り直し、昨日の続きに取り組みます。先生もさすがに昨日の説明はざっくりしすぎだと思ったのか、テキストに書いてある内容を講義形式で補足。あとは知っていると便利なテクニックなどをミシンを使って実演してくれたりしました。当たり前ですが、ミシン使いもとてもうまい先生。2日目ともなるとなんとなく先生と受講生との間にも親しい雰囲気が生まれてきます。午後からはなんだかもう紙ゾンビを作ることにも疲れてひとり「丸」を作ることに没頭したりしている間に講座は終わりました。
最後に質問は?と聞かれたので先生のぬいぐるみ歴を聞いてみると、「小2から作っていた」とのことでした。手先が器用すぎてテレビチャンピオンの『手先が器用選手権』にも出たことがあるぐらいだそうなので、私とはスタートも才能も違いすぎるようです。
はじめからわかっていたことではありつつ今回痛感したのは、私は2次元のイラストなどは何とか描けるのですが、そこから3次元を想像することはとても苦手であるということ。また、紙を切って、それぞれをテープで貼り合わせて立体を作り、またばらして形を修正してまた貼って…という作業延々と繰り返すという根気もないということです。ぬいぐるみの型紙に著作権があり、高価な理由もよくわかりました。できるだけシンプルな型紙にするために、どれだけの試行錯誤がなされているか…。
オリジナルのぬいぐるみを作る道は、いきなりゼロから作るのではなく、既成の型紙を自分好みにアレンジすることからスタートするのがよさそうです。ひと夏の苦い思い出ができました。