世の中で一番テンションが上がること、それは予期しないタイミングで松田ペットの看板に出会うことではないでしょうか。
「松田ペットの看板」とは、新潟県長岡市にあるペットショップ、松田ペットの看板のことです。私はネットでこの看板の強烈な絵のことは知っていましたが、それが実際どこにあるのかは全く知りませんでした。“地方のどこか”ぐらいの認識です。
私は2月のある週末、「雪が見たい」という理由で特に計画を立てずに東京から北関東の奥の方へ列車の旅をしていました。日本海側では記録的な大雪が続き、連日除雪作業で死傷者が出ていた頃です。太平洋側の東京では雪が降る気配が一向になかったため、雪が降らない地域の無責任な考えで決行しました。
土曜日は群馬県の奥の方で一泊して、日曜はさらに雪深い地を目指して日本海側へ行ってみることにしました。その日のうちに東京に戻ることを計算すると長岡ぐらいがちょうどよさそうだったので、上越新幹線で40分ほどかけて長岡駅に向かいました。在来線は雪のためすべて運休。念のため長岡駅に着いたと同時に帰りの新幹線の切符を買っておきました。
雪を見る以外特に何をする予定もなかったので、駅の売店をのぞいてみると、お土産コーナーに異彩を放つ松田ペットの看板がプリントされたお菓子が売っていて、「長岡って松田ペットの看板があるところだったのか!」と思いました。
駅を出ると特に期待していたほどの雪は降っていなかったものの、道路脇には「除雪の戦いの跡」が垣間見えるうず高く積まれた雪の山がそこかしこにありました。とりあえず駅の近くで新潟名物のへぎそばを食べたら特にすることもなくなり、喫茶店でコーヒーでも飲んで帰ろうかと思っていたところ、ふと、「松田ペットの看板って近くにあるのかな?」ということが頭をよぎり、グーグルマップで調べてみるとへぎそばの店から徒歩30分ほどのところでした。
帰りの新幹線の時間まであと2時間ほどあったので、ちょっと行ってみるか、と軽い気持ちで行くことにしたのが大間違い、とんでもないことになりました。
駅の周辺はそうでもなかったのですが、駅から離れるほどに雪の積もり方が尋常ではなくなってきます。そして、駅構内のサイネージで見かけた「不要不急の外出は控えましょう」の言葉通り、誰も外を歩いていない。その日は衆議院議員選挙の日でしたが、雪国の投票は命がけだと思いました。歩いても全然進んでいる気がしない中、30分だし歩けるかもと思ったのが甘かったことにようやく気がつき始めたころ、「信濃川」の表示が見え始めました。おお、これが日本一長い信濃川か…!と初めて見たので感動していたのですが、そこで全く前が見えないほどのホワイトアウトが起きました。しかし松田ペットは信濃川を越えてすぐだったはず、ここであきらめられないッと吹き付ける雪で顔が痛くてたまらない中、信濃川にかかる長生橋を歩いて渡りました。

しかしさすが一級河川、歩けど歩けど橋が全然終わらずもはやここまでか…と思われた時に、ようやく視界が開けてきました。対岸に渡ったと同時にホワイトアウトが収まったようです。そして、間もなく例の怪しい何かが見えてきました。




苦労して橋を渡ってきた先に例の看板はありました。噂にたがわぬものすごい迫力です。でもあまり時間がない!早く写真を撮ってお店でグッズを買わなければ…!


お店を入ってすぐに松田ペットの看板のグッズが大展開されていました。B級グッズ大好き人間の私が欲しいと思うようなグッズが過不足なく売られており、興奮が抑えきれません。と同時にここは普通のペットショップでもあるので、連れて来られたワンちゃんがお店の人に「爪切りですね~」と対応されている、なんだかちぐはぐとも思われることが起きています。私はお財布事情が許す限りのグッズを購入しました。レジでは店員さんもグッズのTシャツを着ていて、グッズ購入者には「フレンドカード」という会員証が100円で発行されるということでそれも欲しかったのですが、店員さんに「100円かかるんですけどいいですか?」と聞かれて躊躇してしまった自分を今、死ぬほど後悔しています。


私は従来はペットショップ好きですが、今回は興奮と疲労と時間のなさで、本来のペットショップとしての松田ペットは堪能できませんでした。ざっくりと、看板以外は普通のペットショップといった印象です。犬と猫とペットに関連するグッズが売ってました。
問題は駅に帰ることです。ペットショップ前のバス停の時刻表では長岡駅行きのバスが15分後に来ることになっていますが、この雪の中、時刻通りにバスが来るとは考えにくい。タクシーなんてもちろん走ってない。私は40分かけて歩いて戻ることを決意しました。行きとは違い、漲るパワー、なぜか帰りは永遠に続くと思われた長生橋もすぐに渡り切ることができました。



無事に長岡駅に時間までに帰ることができ、駅で帰りの新幹線で食べる新潟のソウルフード「イタリアン」を購入、新幹線で食べて帰りました。
帰ってみて都内でも珍しく積雪があったことを知り、わざわざ新潟まで雪を見に行く必要はなかったのかもしれませんが、おかげで松田ペットの看板が見れたのでいいのです。そして期日前投票を済ませていた選挙の結果がわかるにつれて、あまりのことにがっくりと落胆しました。私はホワイトアウトの中、信濃川を渡り切った時に別の世界線に入ってしまったに違いない。あの悪い夢のような松田ペットの看板の絵の世界に…。
それはそうと、近頃は何かに心から感動したりテンションが上がったりすることもめっきりなくなってしまったと思っていましたが、偶然訪れた土地で松田ペットの看板に出会うということはこの上ないスパークルジョイでした。また今回のような偶然の出会いに期待して、あまり事前に情報を仕込まずふらっと旅に出たいと思います。

