約1年ぶりの投稿です。これからはまたブログも更新していきたいと思います。
映画を観るために高崎へ
最近少し暇になったので、毎週水曜のちょっと料金の安い日に映画館で映画を観るようになったんですが、大体いつも東京のどこかで何かしらの観たいなと思う映画がやっているのに、たまたまその週はそれほど観たいと思う映画がなく、どんどん検索範囲を関東近郊にまで広げていると、「高崎電気館」という、名前からしてかなりグッとくる群馬県高崎市の古い映画館で、松田優作の生誕75周年特別記念上映をやっていることを知り、そういえばちゃんと作品を観たことないかも…と思って何となく小旅行もかねて観に行ってみることにしました。
新宿駅から湘南新宿ラインの特別快速に乗れば大体2時間ぐらいでJR高崎駅に着きます。ちょうどお昼時に着いたので、高崎駅から歩いて15分ぐらいだという高崎電気館に行く前に、駅で駅弁を買って駅前のベンチで早速食べました。これが後々大変なことになるのですが…。
駅からぶらぶら歩いてそれは見事なシャッター商店街、中央銀座通りをしばらく進み、角を曲がってすぐのところに高崎電気館はありました。期待していた通りの古いままの映画館です。階段で2階に上っていき、受付で13時10分から上映の「暴力教室」と14時55分から上映の「最も危険な遊戯」のチケットを各1,500円支払って購入しました。各回入れ替え制で、自由席です。劇場内に入ると、だだっ広い客席に、お客さんは私を含めて4~5人ほど。年齢層はかなり高めです。深紅のビロードの客席は、私がまだ子どものころ、ドラえもんの映画を観に行っていた時代はこういう座席だったかもという、立った後はシート部分を自分で元に戻さないといけないスタイルのもの。各シートにブルーのビニールカバーがかかっていて、地元のスポンサーの名前が書いてあるのも味わい深い。傾斜した地面が段々になっておらず斜めの面に座席があるので、座ると足元も斜めになって落ち着かず不安定です。
今まで松田優作の主演映画は1983年公開の「家族ゲーム」と、同年公開で薬師丸ひろ子と共演した方の「探偵物語」しか観たことがなく、リアルタイムでは私が物心ついたころはすでに松田優作は亡くなっていました。
それにしても、生きていてもまだ75歳なんて、今の感覚ではまだまだ若いですね。今回はたまたま観た4作品が公開順だったので順番にちょっと振り返ってみようと思います。
1作目『暴力教室』
予備知識なしで観始めたら、映画が始まってすぐ、1976公開のこの「暴力教室」が“東映”映画で、私が以前好きでよく観ていた東映の「仁義なき戦い」シリーズなどの実録やくざ映画とほぼ同時期に制作され、同じようなテイストであることに驚きました。真っ赤な毒々しい筆文字の映画タイトルに縦書きのクレジット、音楽は’70年代にはやくざ映画の劇伴を数多く手がけていた菊池俊輔、脇を固めるおじさん俳優も室田日出男や名和宏など実録ものでよく見る面々で、既視感が半端ないです。違いは高校が舞台であること、主演が高校教師の松田優作であること、生徒が映画初主演の“クールス”時代の舘ひろしであることぐらい。やくざと高校生では全然違うはずなんですが、荒くれものたちの権力抗争、裏切り、復讐などが物語を動かしているので結果的に同じテイストになっています。そんな東映やくざ映画フォーマットの中で松田優作を見ると、やはり肉体の個性が際立っていて、手足の長さはもちろん、顔つきや風貌などがその他の日本の俳優の誰とも全く異なっており、公表されている出自ともまた違う、もっと南方の雰囲気があるなぁと思いました。ブルース・リーなどが時代的にも近い雰囲気かもしれません。学校の中で殺し合いの乱闘が繰り広げられていても全然警察が来ないところを差し引いても、映画の内容はまぁ、なんともです。松田優作と舘ひろしの貴重な共演以外は特に特筆すべきところはないです。
今回見た4本の映画すべてそうですが、本作はとにかく女性の扱いがひどいです。以前はその時代のそういう描写を見てもそんなもんかぐらいに思ってましたが、今回はシンプルに嫌だなあと思いました。なぜ妹がレイプされているのに、妹をレイプしたやつと最後友情めいたものを感じているのかと。思わず当時は映画の中以外でも尊厳を踏みにじられるような思いをした女優さんが大勢いたんだろうなというところまで想像して嫌な気持ちになりました。
2作目『最も危険な遊戯』(途中離脱)
続いて観たのは「暴力教室」の2年後に公開された「最も危険な遊戯」。たった2年なのに、随分とフォーマットがアップデートされていて、タイトルロゴは筆書き文字からフォント文字に、音楽も大野雄二に、松田優作のファッションもおしゃれで、せりふ回しもいかにもなせりふ口調ではなくはずし気味で、全体に都会的になっています。ところがこの映画のあたりから段々と気分が悪くなってしまい、30分ほどであえなく途中退場…。おそらく昼の駅弁にあたってしまい、ホテルで吐いてそのままダウンしました。
しかし続きが気になったので後日東京に戻ってから配信で全編を観ました。松田優作演じる主人公鳴海昌平はふだんはギャンブルも負け通しで全然冴えない風体、でも実は凄腕の殺し屋で、高額で暗殺の依頼を受ければゴルゴ13並みの命中率で成功させてしまう、という話なんですが、これもストーリーとしては特筆すべきところはなく、見どころは松田優作の肉体の躍動と、それを追いかけるカメラワーク、大野雄二のモダンジャズに時々ルパンそのままの音楽と、松田優作が疾走する‘70年代の東京の街並みです。どんどん敵を倒していくのは痛快かもしれませんが、あまりにも簡単に敵が撃たれて死んでしまうので、カタルシスが少ないです。
ヒロイン?の田坂圭子さんがスタイル抜群でショートカットのパンツスーツ姿が格好良く、他にどんな映画に出てるんだろうと思ってネットで調べても全然情報がなくて、劇中ではほぼ半裸だし、当時の芸能界の闇的な何かなのかな…とまたもやっとしました。
3作目『殺人遊戯』
高崎のホテルで一泊して体調を整え、2日目に観ました。平日の11時ということもあって昨日よりさらに観客が少なく、私とおじさんの2人で「殺人遊戯」を観ました。もはやスタッフさんの方が人数が多いです。当たると即続編制作の東映スタイルでさっそく「遊戯」もシリーズ化し、公開は「最も危険な遊戯」と同じ年の78年です。シリーズの作品名がみな似通っていて覚えにくいのも東映あるあるです。
一番おとぼけ成分が多い作品で、前作には登場しなかった舎弟キャラ(阿藤海)が登場して何かと鳴海に関わってくるのですが、次回作にも登場しないし、シリーズ全体の設定というか人物造形がかなりテキトーです。昨日と違って体調もよかったので細かいことは抜きにして、勢いを楽しんで観られました。
やはり見どころは優作・音楽・風景です。
4作目『処刑遊戯』
’79年公開、遊戯シリーズのラストとなる本作はコミカル要素全くなしの全編シリアスな作品。しかし鳴海の標的となる敵の凄腕の殺し屋、凄腕の割にあっさりと色仕掛けに騙されてしまい、あまりにも隙があってまた拍子抜けしてしまいました。とにかく敵がしょぼいのが悲しいです。
見どころは優作のトレンチコート、若いりりィ、まだ現役の同潤会青山アパートです。
’70年代の松田優作を堪能したので、あとは少し高崎観光をして帰りました。初期4作品でも俳優としてのカリスマ性は十分に感じましたが、映画としては歴史的価値以上の普遍性みたいなのはないかもしれません。’80年代に入ってからが本領発揮だったのかもしれないと思いました。
しかししばらくの東京住まいで忘れかけていましたが、今回高崎で地方の名画座の現実をまた目の当たりにした思いです。どんなマイナーな映画でもそれなりに人が入っている東京とは違い、地方だとかなり有名な作品でも全然人が入らず、心意気だけで映画館を続けている感じなんですよね…。素晴らしい映画館なだけに、もっとたくさんの人に来てほしいと思いました。
映画と体調不良の合間に訪れた高崎の見どころ
ぐんまちゃんSHOP
せっかく高崎まで来たのにホテルでダウンしているだけでは旅が台無しなので、ホテルから歩いて行ける距離で何か心の起爆剤を…!と求めて行ったのが高崎駅東口側の駅ビル「イーサイト」2階にある群馬県マスコットキャラクター「ぐんまちゃん」の専門店です。ぐんまちゃんの実力、見せてもらおうか…と店内に1歩足を踏み入れた瞬間、圧巻のグッズ展開に完膚なきまでに打ちのめされました。全部かわいくて欲しかったのですが、ぬいぐるみだけは何とか自制して(家にもたくさんあるしすごく場所をとるので)、私が買えるギリギリアウトぐらいまで爆買い、萎れていた心が一気に潤いました。こんなに完ぺきなかわいさのぐんまちゃんが県職員のデザインというのにもグッときました。
茶フェ ちゃきち
高崎駅西口側の駅ビル「モントレー」コンコース階にある日本茶専門店のジェラートコーナーの前をふと通りかかり、緑色のグラデーションに目が釘付けになりました。なんと抹茶味だけで6種類もあるのです。濃さの加減で一段から五段まであって、“スイーツの領域を超えた”一番濃いのが「極」。私は抹茶の三段とほうじ茶味のダブルを食べましたがゲロを吐いて何もなくなった胃に沁みわたりました…。翌日は四段を食べたんですが、「極」に挑戦しなかったことを今さら悔いています。
喫茶コンパル
その土地の古い喫茶店を訪ねるのも旅の楽しみです。2日目にホテルをチェックアウトした後、映画が始まるまで少し時間があったので、映画館から歩いて5分ほどの中央銀座通り入口近くにある喫茶店「コンパル」に行ってみました。かなり有名なお店だそうですが、平日の午前中ということもあって客は私ひとり。体調も回復してしっかり朝食バイキングを食べたところだったので名物のプリン・ア・ラ・モードではなくクリームソーダを注文しました。老夫婦2人でお店を切り盛りされている様子でした。こういう昭和色の濃い喫茶店も心意気だけで続けておられる場合が多く、大体が“一代限り”なので、行ける間に行くに限ります。束の間の贅沢な時間を堪能しました。
少林達磨寺
狙ったわけではなく、その日自分はおしゃれのつもりでたまたま香港で買った「少林」と書かれたキャップと、少林寺拳法のイベントで買った、胸にデカデカと「少林寺」と書かれたTシャツを着ていたので、喫茶コンパルでお店のおじいさんに「少林山行ってきたの?」と聞かれ、一瞬なんで?と思いました。高崎といえばだるまが有名ですが、そのだるまで有名なお寺が「少林山達磨寺」というわけなんですね(なぜ達磨寺が中国の少林寺にゆかりがあるのかは説明が面倒なので省略)。
これも何かの導きと思って、2日目に高崎電気館で映画2本を観た後にその足で達磨寺に行ってみました。
高崎といえばだるまなわけだから、達磨寺へのアクセスも容易だろうというのが甘い考え…。映画館近くのバス停から「ぐるりん少林山線」で向かったのですが、乗るタイミングと系統がうまくかみ合わず行きは最寄りのバス停から達磨寺まで20分ほど歩き、帰りは達磨寺から歩いてすぐのバス停から乗車できたものの本当に少林山をぐるりと1周することになり高崎駅まで戻るのに1時間もかかりました。おかげで少林山から高崎市街が一望でき、中曽根康弘など多くの人材を輩出した名門、県立高崎高校などの名所?やだるま工場も通って観光できましたが…。
で、肝心の達磨寺ですが、期待する達磨寺のイメージ通りのだるまだらけの本堂が圧巻です。疲れたので境内の「喫茶だるだる売店」に行きたかったのですが、現在はだるまの絵付け体験だけで喫茶はやっていないようでした。おすすめは総門の大階段を登ったところにある「招福の鐘」でゴーンと鐘を鳴らすことです。荘厳な響きが少林山に響き渡り、心が少し落ち着きました。
最後に
初日にゲロを吐いた以外は楽しかった高崎旅行。訪れたのは今これを書いているちょうど一週間前で、その時はまだ暑さに弱い私もまだ大丈夫なぐらいの気温でしたが、今日の高崎は37度ぐらいまでいっていたようなので危なかったです。ゲロ&熱中症だった場合はぐんまちゃんグッズでも回復できなかったかもしれません。
高崎電気館にもっと人が来ますように…。