JIMBOCHO-VINTAGE BOOK TOWN!

神保町で買ったアメコミに影響を受けて描いたイラスト

全くテンションの上がらない事実なのですが、もうすぐ40歳になるので、区からがん検診のクーポン券が送られてきました。健康診断大好き人間のはずなのに、「がん検診」は全然うれしくない。公的に『中年になりましたよ』との宣告を受けたように感じたからでしょうか。それで市ヶ谷にある検診センターのようなところでがん検診を受けて、秋晴れの中を何となく歩いていると、気がついたら神保町あたりまで来ていました。

なんというか、私のような電車なしで行ける文化的なスポットがBOOK OFFかTSUTAYAしかない不毛地帯に育った田舎出の人間からすると、神保町のような古書街は少し格が高いといいますか、いつか行きたいと思いながらも上京以来ずっと保留になっていた場所でした。しかし、偶然足を踏み入れたとはいえ、これは“その時”なのかもしれないと思い、その日はざっと眺めるだけにして、神田古書店連盟の公式ガイドマップ『JIMBOCHO 古書店MAP』を適当な店先でもらい、帰って作戦を練り直してから再挑戦することにしました。

連盟に加入している古書店だけでも150を超えているので、ある程度お店を絞って行く必要があると思い、地図で気になったお店の公式サイトやBOOKTOWNじんぼうのサイトでお店の雰囲気を調べ、ジャンルは『サブカルチャー・漫画』中心に攻めてみることにしました。戦利品から神保町初ディグを振り返ってみようと思います。

『@ワンダー』で買ったアメコミ

こういう薄いアメコミが100円で店先に売られています

@ワンダー』 は古書店が最も集中している神保町駅を出てすぐの靖国通り沿いにあり、比較的入りやすい雰囲気があります。SF、ミステリー、幻想系書籍からマンガ、映画ポスターと幅広い。2階に行くと壁沿いの棚にたくさんのアメコミが置かれ、カフェも併設されています。このお店だけでも余裕で一日過ごせるのですが、今回はいろいろ巡ってみたかったのでとりあえず店先の段ボールに並べられている100円の薄いアメコミから勘で3冊抜いてみました。アメコミの知識ゼロなんですが、1話ごとに薄い冊子になっているシリーズものなのかな?全ページカラーで、話の筋が追えなくても楽しい。

お店の外の壁沿いにもびっしりと本

『夢野書店』でさいとう・たかを先生のサイン入りマンガが100円!?

先生の直筆サインにも思えるが…

夢野書店』、漫画古書専門の本当に夢のようなお店です。古い漫画がまるで新品のような保存状態で売られている。さいとう・たかを先生が亡くなって間もないということもあり、ちょっとした特設コーナーのような場所があって、そこでこの初期っぽい絵柄の「ワン・サイド特急」を買ってみました。最後のページが破れているという理由で100円だったのですが、買って帰って何気なく最初のページをめくったら先生の直筆サインが入っているじゃないですか!ネットで先生のサインを見ると本物っぽく思えたのですが、まさか直筆サイン入りで100円ってことはないだろうし、偽物なんですかね…。しかしそんな夢を見せてくれるのも神保町ならでは!

夢野書店は神田古書センター2階に入っているのですが、同じフロアには超有名カレー店の『ボンディ』があり、お店の中にそこはかとなくカレーの匂いが漂っています。行列に並ぶ根性がなく行きませんでしたが、またいつか行ってみたい。

興味のあるテナントしか入っていない夢のようなビル

BOOK DASHで『ひとみちゃん』を買うが…

表紙はかわいい

靖国通り沿いの“明るい”お店から徐々に通りの奥のよくわからない迫力のあるお店へと歩みを進めてまいります。『BOOK DASH』というお店はグラビア写真集などがメイン。アイドル写真集専門の古書店は他にも有名店がありますが、ここはちょっとサブカル感というかB級感を大事にしているのかな?という印象でした。漫画、それもエロがやや強めの漫画があるかと思えば昭和のおもちゃのようなものも売っており、狭いお店に雑多かつ猥雑な品が並んでいます。そこで何となく手にしたこの平口広美の『ひとみちゃん』を買って帰ったのですが、予備知識なしだったため内容の過激さに衝撃を受けました。同時期の同じガロ漫画家である蛭子能収がまだポップでかわいく思えるほどのハードな不条理エロ?漫画でした。作者の平口広美はAV男優をしていたり風俗ルポを書いたりしているエロの専門家でありつつ、もともとは赤瀬川原平の弟子でもあるので画力もある。よって蛭子さんよりも余計に内容が先鋭化していて、正直読んでいてきつい部分もありました。しかし、こんな本にうっかり出会ってしまうのもさすが神保町!との思いも新たにしたのです。

お店のフォントがまずB級っぽい?

『くだん書房』で謎の同人誌を3000円出して買う

とても貴重な同人誌なのです!
これはかわいいイラスト満載で参考になります

だんだんと神保町の雰囲気に吞まれなくなり、どんどんと入りにくいお店にも食い込んでいきます。古い雑居ビルの3階にある小さな少女漫画専門の『くだん書房』は、棚と棚の間隔も狭く、リュックを背負っていると後ろの棚に当たってしまうほど。しかも本に値段がついておらず、店主に直接聞くスタイル(!!)。自分がリアルタイムで読んでいた’90年代以前の少女漫画がメインなのでほとんど知らない漫画たちの中から勘で5冊ほど選び、レジにいる50代ぐらいの男性の店主に値段を聞きました。店主は「えーとね」と言いながらPCでおそらくお店のサイトと思われるページの目録を調べて、値段を伝えてきます。どれも1,000円以上で結構高いな…と思っていたら、一番価値が謎で適当に表紙がかわいいので選んだ同人誌が3,000円するといいます。思わず「なんでそんなに高いんですか?」と聞いてしまうと、「作画グループという同人誌でのちに“グループ”という名前になるんだけど、これはその前身の“なかま”ってやつで、 “グループ” に比べるとあまり数を刷ってないから…」「のちにプロになった先生も結構いて、みなもと太郎先生とか〇〇先生とか 〇〇先 とか(全然知らない名前)…」ととても詳しく教えてくれました。なんだかその “ 自分があずかり知らない価値 ” という部分に惹かれて思い切ってその同人誌とイラスト教本を買ってみました。なんとお釣りは店主の財布から直接出てくるという。個人経営が極まっており、そこにぐっときてしまったのでした。帰ってから同人誌を読むと、確かに皆レベルが高くて面白い。中田雅喜という人の作品が好きだなと思ってググったらプロの漫画家だったので、店主の言うことに間違いはなかったようです。

くだん書房の真横に入っているカスミ書房もよかったです!

『ナウカ・ジャパン』でドストエフスキー原書を発見!

“3匹のくま”

くだん書房から歩いてすぐ近くのところに、古書店ではないのですが、ロシア書籍専門の『ナウカ・ジャパン』があります。2年前にモスクワに一泊してそのハードな魅力にガツンとやられて以降、毎日コツコツ語学アプリでロシア語の勉強を続けておりまして、いつかドストエフスキーを原書で読むのが夢だったのですが、「カラマーゾフの兄弟 (Братья Карамазовы)」も5,000円ほどで売っているではありませんか!しかし直前のくだん書房とカスミ書房で結構高額な本を買ってしまったために、すでに軍資金がほとんど残っておらず、今回はお手頃な価格のロシア語の絵本を買うことにしました。店員もロシア人らしく先に会計していたお客さんはロシア語で果敢に話しかけています。私はとっさに「スパシーバ(ありがとう)」しか出てこず…。このお店は絵本や文学書以外にも新聞、語学、CD、北方領土関連本、東欧諸国本、料理本などロシア関連の幅広い書籍が置かれていました。日本語でもロシア関連書籍はあまり売っていないのに、こんなに豊富に原書があって感動しました。

КНИГИは本(複数形)という意味です(ドヤ顔)

番外編:スマトラカレー共栄堂のカレーも衝撃的

見た目は欧風カレーなのだが…

神保町といえばカレーも有名ですが、大正13年創業の『スマトラカレー共栄堂』のカレーも“今まで食べたことのない味”という意味で衝撃的でした。チキンカレーを頼んだのですが、なんというか“うまみ”のようなものが一切排除されていて、苦いスパイスの味だけがするという…。「単純においしいとは言えないけど、決して他では食べられない味」というポジションで神保町で不動の地位を築いているのでしょうか。食べている間、頭の中がずっと混乱していました。お店は長蛇の列ですが、慣れた店員さんが鮮やかにさばいてものすごい回転率、あっという間に順番が回ってきます。神保町は「片手で本を読みながら食べられる」という理由でカレー屋が多いという説がありますが、悠長に本を読みながら食べている人などいませんし、そんな雰囲気は一切ないです。

根暗にやさしい街

初めて神保町のお店を数件回って、やはりほしいなと思う本は値段もそれなりに高いことが多かったのですが、BOOK OFFの値付けとは違い、さすが店主の目利きに全く隙がないと思いました。基本レジの店員は本に埋もれていてどこがレジなのかもよくわからない店が多いし、それが本望といわんばかりなのがいいです。店先で100円でたたき売られているような本でも透明ビニールで包装されていて、状態がいいのも地味にすごい。今回事前にマップを基にお店を調べていると、すでに廃業になっているところも数軒あり、コロナの影響なのかわかりませんが全体として決して楽な状況ではないのかもと想像します。こんなに根暗にやさしい街も他にないと思うので、軍資金を貯めてまた通いたいと思いました。

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